瞑想は鼻息のリズムに合わせて

床屋に来た。


太った女の人が髪を切ってくれている。


日本語がギリ通じる。


でも基本無言だ。


無言だが鼻息がすごい。


フーフー言ってる。


そして僕は、フーフーのリズムに合わせて瞑想を始めた。


フーフー


そうだ。僕は目立たないキャラで生きてきた反動からか、高校から大学にかけて、奇抜な存在に憧れた。


フーフー


アーティストになりたいと思ってたし、アートな生活を実践している人たちに強く魅かれていた。

いわゆるミーハーオシャレ気取りクソ野郎である。


フーフー


あこがれは行動に反映され、当時は東京でもトップレベルのカリスマ美容室に通っていて、そこの美容師のアーティスト的な感性に毎回刺激されていた。


フーフー


 そこの美容師達はそれぞれ「部活」を結成し、課外活動としてお客さんとともに美容以外のアートにも勤しんでいた。

聞くと、そうした外からのアート活動が、自分の散髪スタイルにも影響してくるのだという。


フーフー


その美容院で僕を担当してくれた男性はジョジョ系の顔立ちの方で、勝手に頭の中でジョルノジョバーナと呼んでいた。


フーフー


ある日美容院に行ってみると、ジョルノジョバーナは左半分黄色、右半分青の着物を着て人の髪を切っていた。


「どうされたんですか?」とこちらが聞く間もなく、彼は言った。


「今日は僕の誕生日なんですよ。1年に一度の日、自分で自分を高めようと思って。」


カッコいい...!!何って、全然説明になってないところがカッコいい...!


フーフー


僕はジョルノジョバーナの感性に心底惚れ込み、特にしたい髪型を事前に考えず、まるで寿司屋かのごとく毎回「おまかせ」していた。


フーフー


ある日僕が寝ぐせをつけながら美容院にいくと、ジョルノは言った。


「その寝ぐせを活かして、寝ぐせっぽいパーマで行きましょうか


カッコいい...!本来修正すべき寝ぐせの延長線上に完成形を見てしまうそのスタイルかっこいい!


「髪をかわかすときは、お辞儀のじょうたいで頭を下げてやるとより寝ぐせっぽい仕上がりになりますよ」


カッコいい!もはや結構無理のある要求されてるけどなんでもいい!カッコいい!


フーフー


そんな僕だったが、いずれは就活生になり、一般的なサラリーマンになり、いわゆるミーハーオシャレ気取りクソ野郎をやめなければならない道を選んだ。


フーフー


その時点で、僕が美容院に求めるものは急変したように思う。


美容院にオシャレ、アートを追い求めたかつての僕はもうそこにはいなかった。


地方転勤も重なったことから、

僕の中の美容院条件チェックボックスから

「東京」が外され、

社会人生活により「カリスマ」「アーティスト感」という条件を外さざるを得なくなった。


身だしなみ基準に則った髪型を、安く提供してくれればそれで良い。


僕の新たな条件チェックボックスは、

「最低限名が知れているorネットに悪いクチコミのない」

「身だしなみ基準通りに切ってくれる」

という極めて控えめなものになった。


フーフー


初めての地方転勤で知らない美容院に行くのが怖くて名の通った全国チェーンのサロンを選んだ。


フーフー


年の近い若い新人の女の子が、トークも不器用ながら一生懸命切ってくれた。


フーフー


次に1,000円カットの店に行ってみたら、

そこの店員さんに

「前カットした人下手だね。」

と言われた。


1,000円カットレベルの料金水準で

全国サロンにケチをつけるプライドを保つ

店員さんに感銘を受けつつ、

あの新人の女の子を

かばいたくなる気持ちも芽生え

複雑な気分になった。


フーフー


少し話が逸れたが、


大人になるにつれて、

僕はオシャレに関心がなくなっていくのだろうか。


僕が美容院に求める条件はどんどんなくなっていってる気がする。


フーフー


そうしたいきさつを経て、

僕はいまアジアの片隅に居て、


ギリギリ日本語が通じる鼻息さんに

髪を切ってもらっている。


フーフー


もはや今の条件チェックボックス

「髪を短くできる」

くらいまで低次元化してるではないか。


フーフー


「モチョット、カルクシテモイイデスカ?」


「え?あ、はい。」


フーフー


鼻息さんが髪を軽くしてくれてる。

もはや、梳きバサミがあっただけでちょっと嬉しい。


フーフー


やめさせてもらうわ。